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 ものづくりの差別化について

     (執筆:代表取締役 杉原 寛)


■ 第1回      <2010年05月20日号>


(1)景気は回復傾向に・・・

5月は躍動の季節であり、目に映る青葉の輝きが人々に心躍る力を伝えてくれます。
また、各社が3月決算の業績発表をする時期でもあり、その数2千社といわれます。

大方の予想では、30%の企業がリーマンショック以前の08年3月期を上回る回復を果したといわれており、 一時期の暗い重苦しい時代から明るい兆しが出てきたといえます。

しかしその中味は、人件費の削減や原材料価格の下落で貢献した企業が多いようです。
電力、ガス、製紙、通信等の企業で業績回復が先行しており、自動車や電機分野の回復がこれに続きますが、 早くその裾野が広がり全業種の回復に至ってほしいものです。


(2)業績のポイント

ところで、製造業の業績は

  @売上向上
  A原材料の量的或いは価格的逓減
  B固定費の逓減

に左右されますが、わが国の現状では@の「売上向上」が、極めて困難な状況であるといわれています。

その背景には少子高齢化による人口の減少で、購買力が縮小していることと、近隣諸国からの低価格商品の乱入があるからです。

私はそのようなことが、いつまでも続いていては「国家の一大事」であると思いますが、少なくと も日本人の知恵で、これを打破する方法を考えなければならないということです。

海外進出や企業の国際化は、それらのダイナミックな現象ですが、やはり、ものづくりの原点には、 前述の「A原材料(量、質、価格)の逓減」と、「B固定費の逓減」を進めることが大切であると考えます。

以下数回に亘り、ものづくりの生産性について、他社との「差別化のヒント」を述べていきたいと思います。
それには「標準化、作業研究、改善活動等々」がありますが、先ずは標準化について述べますので、 ご関心ある方はお付き合い願います。

(次回へつづく)


 ものづくりの差別化について

     (執筆:代表取締役 杉原 寛)


■ 第2回      <2010年08月11日号>


(3)モノづくりの標準化

モノづくりには「人、材料、機械、方法」の4つの要素があり、これを4Mといいます。
    (*1)4M:人(Man)、材料(Material)、機械(Machine)、方法(Method)

この4Mの組み合わせで生産性の良否が決まるので、製造業ではどのようなモノをつくる時でも、この4Mをしっかり研究しておかなければなりません。

4Mの関係が決まると、それを「標準」として作業に入ります。企業はこの標準から工数計算や材料計算をして「標準原価」をつくり、一定期間「管理の基準」にします。
ところが、人や材料は勿論、機械や作業の方法は変化することがあります。これを標準からのバラツキといいます。

作業標準とは、「一定の経験者が、一定の作業方法により、一定の時間で行う」ことですが、時には機械の故障や、環境による材料品質の変化のほか、作業者や作業方法の変わることなどがあり、予定通り進まないことがあります。

そのような場合、製造現場がどう対応をするかによって、生産性が決まります。
多くの場合は残業やスピードアップで対応するでしょうが、問題はそのバラツキの原因を科学的に探り、今後にどのように活かすのかが差別化のポイントになります。

長年、同じものを繰り返し生産している場合は、バラツキが出ても経験的な対応で解決出来たでしょうが、余裕のある標準では将来的な競争に勝てません。
標準原価はギリギリの状態を設定して、それを守ることが生産性の基本になります。

作業順序を張り出している工場を見かけますが、これは標準作業を守る手段といえます。
社員提案から「こうすれば早くできる」「こうすれば材料が安くなる」など件数が増えてくると、「チリも積もれば山となり」、差別化は高まりますが、そこには今ある標準の守られていることが大切です。

昔、デスクの生産を日産500から700にするため、
「標準の遵守」⇒「改善提案」⇒「ラインバランスの改善」⇒「新しい標準」の繰り返しから、新たな設備投資もなく実現出来たことがあります。

自動車の分野でも、鋼鈑の板厚が1oから0.7oになれば材料費は30%の削減になるし、それが樹脂になれば更に生産性は向上しますが、それらは一気に出来るものではなく、そのプロセスには「標準遵守」⇒「改善活動」⇒「新標準の遵守」の継続があってのことです。

「守、破、離」という言葉をご存知ですか。
標準を守ることは改善への準備といえます。バラツキの対応や改善提案は、今の標準から新しい標準へと変化していく、差別化への道順であると理解すべきでしょう。


標準

(次回へつづく)



 ものづくりの差別化について

     (執筆:代表取締役 杉原 寛)


■ 第3回      <2010年10月01日号>


(4)標準の認識

前回の「モノづくりの標準化」では、そのアウトラインをご理解願えたでしょうか。

「先ずは決められた作業標準をキチンと守る」ということでしたね。
そこから次の改善へのアプローチが生まれ、「その質と量が改善活動の差」となります。

改善は日々の努力の積み重ねというわけで、「標準とはつま先で歩く前進活動」といった人がいますが、その努力度からは分るような気がします。
誤解が多いのは「決めたことを守る」ことに固執し、新標準を否定する人があるということです。

昔、釣竿メーカーの社長から聞いた話ですが、決められた標準作業で行えば1人当たり1日20セットが出荷出来るので、外国の工場でもその方法を奨励し、出来高給を支払っていました。

その後T国工場では、みんなで工夫して30セットの出荷を出来るようにしたが、品質上のクレームが続出して、必死の改善に努めたそうです。

そのことを他工場であるE国で話したところ、「我々は18セットをしっかり作れば生活出来る」といって取り合ってくれなかったと聞きました。
そのときは「お国柄だな」と受け止めていましたが、今思うと大きな教訓を残しています。

標準

前者は作業標準を軽視して生産性を追及し、失敗をしながらも改善を続けてきたが、後者は「無理をしなくても食っていける」的な考え方で、成長の止まった企業といえるからです。


(5)標準化は経験と科学の対応である。

ある工程で1人の作業者が休んだとき、代わりの人が穴埋めをします。
代わりの人は標準に忠実な作業をしていても、少しずつ変化が出てきて、それが時間や品質に影響することがあります。

同様のことは、機械の都合で代替機を使ったり、午前中の遅れを取り戻すためにスピードを上げたり、材料に少し変化があったり等々、現場では様々なことが起こります。

4Mは環境変化にも関係します。寒暖の差で油圧機械やコンプレッサーの調子に変化が出たり、湿度の変化で機械や材料の調子が変わったりすることなどもあります。

これらの結果が「安全」や「品質」の大問題に発展する可能性があり、生産現場にとっては最大の問題点と出会うことになります。

生産性は「4Mの組み合わせでその良否が決まる」といっても、その組み合わせに先立つものが「安全」と「品質」であり、この二つは簡単な経験や科学的アプローチだけでは突破出来ない問題ともいえるでしょう。

標準化とはこれら問題が科学的に立証され、経験的に織り込まれて、生産性の向上につながることであり、そのような現場では正に戦場ともいうべき真剣さが要求されます。

(次回へつづく)



 ものづくりの差別化について

     (執筆:代表取締役 杉原 寛)


■ 第4回      <2010年12月24日号>


(6)標準から次の標準へ

標準化は前述の諸問題を解決しながら、現状作業のバラツキを少なくして行きます。
そしてやがては生産要素の4Mが安定してきますが、その段階から生産性の飛躍的変化は少なくなり、生産現場では平和な安定生産が続くようになってきます。
しかし「他社との差別化を狙う」企業では、この段階から当初の標準を卒業して行く対策が出て来ると考えなければなりません。

昔、フォード(H.Ford)は、自動車工場での決められた組立方法では、生産性に限界があることを知りました。
彼は19世紀末から行われていた食品工場の単純な流れ生産をみて、自社への採用を考えるに際し、現状作業を徹底的に分析し、細分化、単純化、機械化を考え、これを再編成することで、初期のメカニカル・オートメーションを成功させました。

多くの流れが次第に合流して、最後に1つの流れとなる組立工程では、それぞれの合流点で複数の流れが同期化して行く生産方式として、フォードは世界での先駆者といえます。
画期的な生産性向上を成し遂げた事例として、有名なフォード・システムの流れ生産方式の始まりです。

さてここではフォード自動車工場での「作業分析、細分化、単純化、機械化」といった言葉が出ましたが、次は「作業研究と改善活動」の角度から現場を見て行きましょう。


(7)作業研究

「今の作業を半分以下の時間で出来ないだろうか?」と考える人は少ないと思います。
「そんなこと出来る訳がない」と思っている人が大半だから、当然のことかも知れません。
毎日の仕事に追われているものを「半分以下の時間で行う」など考えもつかないことでしょう。

ところが「それは大きな間違いである」と気付いた時、企業競争への生残りが可能になります。
「生き残りをかけた競争」などということは近年の認識ですが、「生産性の取り組み」は、わが国製造業40年来の伝統といえます。

某自動車工場の話ですが、昔、ある板金プレスの段取り替えに300分かかっていました。
それを見たS先生が「10分以内で出来ないか」と提案したところ、製造現場の大勢から失笑を浴び、些か馬鹿にされたので、彼は「それなら私がやってみよう」といって、その作業研究に着手し、数ヵ月後には見事10分以下にしたという話があります。
どうしてそのようなことが出来たのでしょう。・・・ まさにそれが作業研究です。

製造業では仕事に従事する全体の時間を総所要時間といいますが、それには「みかけの生産時間」と「無効時間」に分けられます。
「無効時間」とは言葉通り、作業が停止している時間や、標準より遅れている時間をいいますが、「みかけの生産時間」には「基本生産時間」と一見生産しているように見えるけれども「実際はムダな時間」があります。この辺りをまとめると、下記の図−(1)のようになります。



【図−(1)】

総所要時間

作業研究では「基本生産時間」以外は、すべてが不要な所用時間ということになります。

大切なのは「基本生産時間」ですが、これは仕事をしているときの稼働時間ではありません。
例えばハンマーで杭を打つとき、ハンマーを振り上げている間も稼働時間ですが、基本生産時間とはいいません。このような時間のムダに気付くことから「振り上げなくてもよいスクリュー式」が考案されたことになります。
一時期の統計調査では、一般的な企業の「基本生産時間」は30%以下であるといわれました。
更にこのことは製造業に限らず、サービス業や事務所作業にも当てはまります。
このように考えると、冒頭の「今の作業を半分以下の時間で出来ないだろうか?」ということも、決して不可能ではないといえます。

(次回へつづく)



 ものづくりの差別化について

     (執筆:代表取締役 杉原 寛)


■ 第5回      <2011年01月31日号>


(8)作業研究の方法

作業研究というと少し専門的になりますが「作業の測定」「方法の研究」をいいます。
「作業の測定」とは「作業の観察から要素別に分析して、距離や時間データに整理すること」ですが、最近は撮影技術も進み、机上で詳細に観察できるようになりました。

「方法の研究」は測定されたデータを改善のために活用することです。
作業測定の対象部門を「全工程で行う」となれば大変なので、最初はネック工程となる部門とその前後の関係する工程くらいにするのが実践的です。

前述した某自動車工場の「板金プレスの段取り替え」では、5時間もかかった停止時間が後工程に大きい影響を与えるために選択された一例といえるでしょう。

一般に板金工場は、プレス部門と組付け部門の作業テンポが異なります。プレス部門の段取り替えは「金型の取り替え」というようにかなり大掛かりであるのに対し、組付け工程は冶具の当たり位置を変更する程度のものが多く比較的短時間で行えます。

従って2つの工程間には、プレスで先行生産した組付け前の材料がストックされます。その結果スペースの確保や供給作業が必要となり、場所や運搬コストの問題が発生します。そのような背景から、プレス部門との同期化を試みる工場が出てくることになります。

さて「5時間の段取り換えが、なぜ10分で出来るのか」というのも気がかりですが、その概略は次通りです。

300分間の観察された作業は細かく要素別にまとめます。
例えば、ボルトaを外す⇒ボルトaをパレット上に置くというように細かく記録して行きます。
そして【図−(2)】のようなDM単位の要素別時間データになります。(1分=100DM/デシマルミニット)

次にこれらを「プレス稼働中も別の場所で、次の段取り替えを準備出来るものがないか」を研究します。
これを「外段取り」といいます。

一方「どうしても機械を停止しないと出来ないもの」を「内段取り」として残しますが、更にそれが10分で出来る方法を研究して行きます。
その結果、ユニット型の発想や、レールの上をスライドさせるアイデアなどが生まれました。
10分以内での段取り替えの成功は、シングル・タイムと呼ばれた時代の「さきがけ」となりました。

時は流れて、シングル・タイムは今やフラッシュ・タイム即ち、瞬間の時間で機種を変更する時代になりました。
これらの「方法の研究」は常に「問題意識と改善の意欲」を持ち続けることが大切です。

その発想には「取る、減らす、1つにする、共通にする、同時にする、引っ掛ける、滑らす、角度を変える」等々の点から検討し、試みる勇気が必要になります。
このような発想の仕方は「長年その道一筋の専門家」にとって、気付きにくいものだといわれます。

【図−(2)】作業者工程分析図(例)



工程分析

(次回へつづく)



 ものづくりの差別化について

     (執筆:代表取締役 杉原 寛)


■ 最終回      <2011年04月22日号>


(9)改善活動について

改善活動について述べることは膨大であり、かなり専門的になります。
そこで本稿ではIE(Industrial Engineering)手法としての活用体系を紹介しておきます。

【表−1】は18年前にわが国製造業の55事業所に対して「現場の改善活動におけるIE手法の活用状況」をアンケート調査した結果であります。

方法は複数回答を含む回答者総数に対する回答比率を表したもので、
 「◎」が30%以上    「○」が20〜30%未満 
 「△」が10〜20%未満 「▲」が6〜10%未満 
 「・」が6%未満
ということです。
現在ではCAD/CAMやロボットの更なる普及で、目的と手法の変化も予想されます。

生産性の向上を目指す企業では、この「分析的アプローチ法」といわれる技法で日々途絶えることなく、改善への無限の挑戦を続けております。

そして、新工場を建設する機会が来れば「設計的アプローチ法」という、理想的なワークデザインから入りますが、それまでの改善活動で培われた実績が大きく貢献します。
わが国が製造業で世界をリードして行くには、この2つの技法の関係が不可欠となります。

【表−1】
IE手法の目的別活用調査結果

(図をクリックすると拡大します。)

IE手法の目的別活用調査結果

本稿は、冒頭に述べましたように「差別化のヒント」という発想に端を発しました。
それを「ものづくりの生産性」という角度から、私のささやかな経験と知見を述べて来ましたが、このことはわが国製造業における50数年の改善の歴史でもあります。

ただ、重要な問題が他にあります。それは間接部門である「営業やサービスその他の生産性」が極めて低いということです。
わが国の間接部門の生産性はOECD加盟32ヶ国の20位と極めて低い位置にあります。
また、それらと関連するのでしょうが、わが国は特定の技術が世界的最先端にあっても、その技術を含むトータル・マネジメントでは、何故か影の薄い結果が多いようです。

この原因は一体どこにあるのでしょう。
これらの対策が少ないことも問題ですが、資源のないわが国が世界で生残るためには、何としても「ものづくり+間接部門の生産性優位」を確立する必要があります。

今後は皆様と共に、その辺りを考える機会を持ちたいと念願して本稿を終わります。
ありがとうございました。


【引用文献】
  文中紹介の、Industrial Engineeringは『IE7つ道具』(日刊工業新聞社)13刷より。(発売中)
   (監修責任は当社会長杉原寛)


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